高校世界史でふれる中世ヨーロッパの歴史について数回に分けて書いていきます。
今回は8回目です。
ヨーロッパの文化について「12世紀ルネサンス」と、14世紀に始まった「ルネサンス」を中心に、なるべく簡単に解説していきます。
・この記事は高校世界史の参考書「世界史用語集」などを参考にしています。
頻度4以上(赤文字で記載)の用語はなるべく入れています。
12世紀ルネサンス
フランク王国のカール大帝の時代、古典文化(ローマ文化)をみなおすカロリング=ルネサンスという動きがありました。
これとは別に、12世紀のヨーロッパでおこった文化・学問の変化を12世紀ルネサンスといいます。
十字軍によってビザンツ帝国やイスラーム圏の学問や文化がヨーロッパに入ってきて、大きな影響があらわれたのです。
このうごきは、このあと14世紀以降におきたルネサンスのさきがけになったといわれています。
イスラーム圏やビザンツ帝国の文献は、イベリア半島や地中海のシチリア島でラテン語に翻訳され、ヨーロッパ全体に広がっていきました。
12世紀ルネサンスの主な内容は、
- スコラ学(スコラ哲学)の発達
- 大学の創設
- ビザンツ様式、ロマネスク様式のあとにあらわれたゴシック様式の建築
- 騎士道物語
- 吟遊詩人の流行
などです。
スコラ学(スコラ哲学)
中世ヨーロッパでは11世紀からキリスト教を研究するスコラ学(スコラ哲学)という学問が発達しました。
スコラ学が発展する途中、実在論と唯名論という考え方があらわれました。かなりザックリですが
- アンセルムスなどが唱えた実在論では「神は実在する!そこは疑うなよ!」
- アベラールなどが唱えた唯名論では「いや、理性的に考えようよ」と主張しました。
実在論と唯名論の論争はつづきましたが、トマス=アクィナスが書いた『神学大全』の理論で、とりあえず論争は終息しました。このためトマス=アクィナスはスコラ学を大成した人といわれています。
その他の有名なスコラ学者は
- イギリスのウィリアム=オブ=オッカム
- 神学だけでなく科学にも詳しかったロジャー=ベーコン
です。
17世紀に帰納法を唱えた哲学者フランシス=ベーコンと、ごっちゃにならないようにしましょう。
文学(騎士道物語)・吟遊詩人
中世ヨーロッパでは、騎士をテーマにした騎士道物語が多く作られました。
代表的な作品は
- 『ローランの歌』カール大帝の時代の英雄ローランが主人公
- 『アーサー王物語』
- 『ニーベルンゲンの歌』神話の英雄ジークフリートの話
騎士道物語は、音楽にのせて物語をかたる吟遊詩人によって伝えられました。
大学
イスラム世界の影響で、ヨーロッパにも大学が作られはじめました。
おもな大学は
- イタリア北部のボローニャ大学(現存するヨーロッパ最古の大学で、法学の研究が発達)
- イタリア南部のサレルノ大学(医学研究が発達)
- フランスのパリ大学(神学が発達)
- イギリスのオクスフォード大学(パリ大学をモデルに設立された。神学が発達)
です。
イタリアはローマ教会があるのに、神学以外の学問が発展したのが、ちょっと意外です。
教会建築
ヨーロッパでは、古い順にビザンツ様式、ロマネスク様式、ゴシック様式が盛んになりました。
ビザンツ様式は丸いドームの屋根とモザイク壁画が特徴です。
代表的な建築物は、
- ビザンツ帝国の都コンスタンティノープルにあるハギア=ソフィア聖堂(セント=ソフィア聖堂)
- 北イタリアのサン=ヴィターレ聖堂。ビザンツ帝国皇帝ユスティニアヌスをえがいたモザイク壁画があります。
です。
どちらもビザンツ帝国が支配した場所に建っています。
11~12世紀に盛んだったロマネスク様式は「ローマ風」という意味で、重厚な石壁と、窓が小さいのが特徴です。
代表的な建築物は、イタリア中~北部のピサ大聖堂です。
12世紀末に盛んだったゴシック様式は、トゲトゲした長い尖塔の屋根や、壁面のステンドグラスが特徴です。
代表的な建築物は
- フランスのノートルダム大聖堂、シャルトル大聖堂
- ドイツのケルン大聖堂です。
「ゴシック」とは「ゴート風」という意味です。ゴートは、ゲルマン人の一派です。そのため「ゴシック」には「ゲルマン人ふう、ドイツふう」という意味が入っていたのですが、実際にゴシック様式が生まれたのはフランスでした。
ゴシック建築については、評論家の山田五郎さんが解説動画を公開しています。
ルネサンス
ここでは14~15世紀にさかんになったルネサンス、いわゆる「有名なほうのルネサンス」についてです。
十字軍が失敗した後は、教皇やローマ教会の権威はガタ落ちし、十字軍で外の世界を見た人びとは、ローマ教会に不信感を持つようになりました。
教会のイメージダウンが一因で、14世紀にはイタリアからルネサンスが、16世紀にはドイツから宗教改革がはじまりました。
14世紀のヨーロッパでは「教会の教えや価値観を離れ、新しい視点で物事を考えたい」、「個人や個性を大切にしたい」、という風潮が強まりました。
そこで、キリスト教が広まる前のギリシア・ローマ時代の古典文学や芸術を参考にし、新しい考え方や個性を探そうとしました。この芸術運動がルネサンスです。
ルネサンスの時代には、個人や個性を重んじる人間中心の思想であるヒューマニズム(人文主義)があらわれました。
今こそギリシア・ローマ時代の文化を見直すときだ!
イタリアのルネサンス
ルネサンスは14世紀のイタリアで始まり、15~16世紀に西ヨーロッパ各国に広まりました。
ルネサンスがイタリアで始まった理由は
- ビザンツ帝国から、ギリシア文化の学者たちがイタリアに避難してきていたため。
(当時のビザンツ帝国はオスマン帝国から圧をかけられて先行き不安な状態でした。) - フィレンツェの大富豪であるメディチ家やメディチ家出身の教皇レオ10世、その他もろもろのお金持ちが芸術家たちを資金援助したため。
などです。
文学
- ダンテが書いた『神曲』
※当時主流のラテン語ではなく地元のトスカナ語で書かれているのが特徴 - 詩人のペトラルカ
- ボッカチオが書いた、ペストがはやった時代を舞台にした『デカメロン』
政治学
マキァヴェリがイタリア統一の必要性について書いた『君主論』
美術
- フェレンツェで活躍したジョット。ルネサンス美術のさきがけの人。
- ボッティチェリが描いた「ヴィーナスの誕生」(でかい貝の上にロングヘアの女性がいる絵)
- レオナルド=ダ=ヴィンチが描いた「モナ=リザ」「最後の晩餐」
- ミケランジェロが描いた「最後の審判」、彫刻したダヴィデ像
- ラファエロがたくさん描いた聖母子像(聖母マリアが幼いイエスをだっこしている絵)
- ラファエロとミケランジェロがかかわったサン=ピエトロ大聖堂
- ブルネレスキ:彫刻家 兼 建築家で、サンタ=マリア大聖堂の一部を設計しました
ネーデルラントのルネサンス
ネーデルラントは、現在のオランダ、ベルギー、ルクセンブルクがある地域です。
1511年、ネーデルラントの思想家エラスムスは著書『愚神礼賛』で聖職者や王を批判し、後世の宗教改革のきっかけの一つになりました。
絵画では
- 油絵の技法を改良したファン=アイク兄弟
- 「農民の踊り」を描いたブリューゲル
が有名です。
ドイツのルネサンス・絵画
主要なのは絵画だけです。
- デューラーが描いた宗教画
- ホルバインが描いた「エラスムス像」などの肖像画
フランスのルネサンス・文学
主要なのは文学だけです。同じ時代の美術は「バロック美術」として別でご紹介します。
ラブレーが書いた『ガルガンチュアとパンタグリュエル物語』
教会に批判的な内容だったのでパリ大学神学部によって発禁処分になりました。
モンテーニュが書いたエッセイ集『エセー』
モンテーニュはユグノー戦争で、争う人たちの仲裁に努力しました。
スペインのルネサンス・文学
主要なのは文学だけです。同じ時代の美術は「バロック美術」として別でご紹介します。
セルバンテスの小説『ドン=キホーテ』
セルバンテスは1571年のレパントの海戦で大けがをしました。
イギリスのルネサンス・文学
チョーサーが書いた『カンタベリ物語』
トマス=モアが書いた『ユートピア』
劇作家のシェークスピアの4大悲劇作品『ハムレット』『リア王』『マクベス』『オセロー』
科学
三大発明
ルネサンス時代の三大発明は、羅針盤・火薬・活版印刷術です。
宋代の中国で生まれたものがイスラーム圏を通ってヨーロッパに伝わり、改良されました。
- 火薬と鉄砲がヨーロッパに伝わると、鉄砲が戦闘の主力となり、騎士の没落が進みました。
- 羅針盤の普及により航海術が向上し、大航海時代へとつながっていきます。
- グーテンベルクが15世紀に実用した活版印刷術の影響で聖書が普及し、宗教改革の一因となりました。
天文学
ポーランドのコペルニクスは晩年に地動説を主張しました。
イタリアのガリレイ(ガリレオ=ガリレイ)も地動説を支持しました。ガリレイは教会に捕らえられて宗教裁判にかけられました。
それでも!地球は回っている…!
中世ヨーロッパのほぼ3択クイズ:習熟度チェックにどうぞ!
おわりに
12世紀ルネサンスと14世紀からの「ただのルネサンス」をご紹介しました。
名前が似ているので紛らわしいですよね。なにか違う呼び方があるといいのですが。
次回は14世紀の百年戦争・15世紀のイタリア戦争についてです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
自分が現役高校生だったときは「12世紀ルネサンス」という言葉は聞いたことがなかったのですが、最新の高校世界史用語集では重要語句とされていたので、とりあげました。
昔からの「ルネサンス(ただのルネサンス?無印ルネサンス?)」とまぎらわしいので、上手い言い方があったら教えてください。